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退職後の人生を考えるとき「資産形成が大切」とよく言われますが、実は「どう取り崩すか」も同じくらい重要です。せっかく築いた資産も、崩し方を間違えると「老後破産」のリスクが高まってしまいます。なくなることを恐れず、お金を育てながら取り崩す、計画的な取り崩し戦略こそが、真の安心を生み出すのです。実際の相談事例をもとに、老後難民にならないための、お金と資産の上手な取り崩し方についてお話しします。
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1. 資産の取り崩しは「額」ではなく 「率」で考えるのが正解 |
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──野尻さんは「資産の上手な取り崩し方」について提唱されています。資産形成と同じくらい「取り崩し方」も重要ということですが、その理由について教えてください。
金融資産を持つ60代にアンケートを取ると、保有資産の延命策については大きく3つに分かれます。「生活費を切り詰める」「少しでも長く働く」「資産を運用する」です。これらは実際に、資産寿命を延ばすためのポイントなのですが、気になるのは「生活費を切り詰める」と答えた方のうち4割が、その削減策として「食費」と答えていることです。
無駄をなくすのはいいのですが、退職した途端、資産を減らしたくないから食費を減らす、というのは、少し違うのではないでしょうか。
上手な取り崩し方とは、資産運用を続けながら、必要なとき必要に応じてお金を引き出して、きちんと活用していきましょう、ということです。
──退職後も資産運用をすると考えると、70代、80代と、年代ごとの資産残高は、運用の成果に大きく影響されそうです。資産が増減する中で、取り崩しの際、気を付ける点はありますか?
特に注意したいのが、「収益率配列のリスク」です。多くの人は、退職後の生活を考えるとき「毎月10万円を定額で引き出そう」といった具合に、取り崩しを「額」で考えがちです。
しかし、資産運用における収益率は、当然ながら毎年一定ではありません。前半に収益率が低いと、定額引き出しでは想定以上に資産残高が減るリスクがあります。これが「収益率配列のリスク」です。
わかりやすくするために、1,000万円の資産を2年間運用し、運用成果はそれぞれ+10%、−5%と仮定しましょう。引き出さなければ、「1年目+10%、2年目−5%」でも、またその逆でも、平均を取れば同じなので2年後の残高はどちらも1,045万円です。
ところが年初に100万円の定額引き出しをするとどうなるか。「1年目+10%、2年目−5%」の場合、残高は845.5万円です。ところが「1年目−5%、2年目+10%」だと、830.5万円。前半に収益率が低いと、15万円も残高が減るのです。
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──同じ1,000万円なのに、お金の引き出し方によって、15万円の差が出るというのはかなりのインパクトです。
私たちは、資産運用は「率」で考え、引き出しは「額」で考えてしまう…、ここに落とし穴があります。引き出しも「率」で考えることが大切です。
たとえば年率3%で運用し、4%を取り崩した場合、概ね1.1%ずつ減っていく計算になります。運用も引き出しも「率」で考えることで、将来の資産残高も計算しやすくなるのではないでしょうか。 |
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2. 資産の取り崩しポイント1: 退職後のライフプランは3つのステージで 設計する |
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──ここからは、退職後の資産取り崩しについて、ポイント別に注意点などを伺っていきたいと思います。資産セミナーでよくご質問を受ける例から、教えてください。
はい。よく質問をいただくケースとしては、現役時代から資産運用をしてきたものの、退職後の生活に、漠然と不安を感じているというご相談です。これからどれだけ資産運用をしたらいいのか。そもそもどのように生活設計をすればいいのか、イメージがわかない、というものですね。
退職時は、資産形成の目標到達点となる方が多いはずです。これを山の頂上と考えた場合、取り崩していく「下り」の時間は、とても怖いものになります。あとは資産が減っていくだけだ、と感じるからです。
しかし、リタイアしてもすべての運用をやめる必要はないのですから、このケースでは「使いながら運用する」という期間を入れて、下山ルートを緩やかにしていくことをおすすめしています。
これを図式化したのが下図です。退職後の人生を「積み立てながら運用する時代」「使いながら運用する時代」「使うだけの時代」と3ステージに区切ります。
ポイントは、それぞれ節目を65歳、80歳、100歳と設定していることです。退職後の資産計画を立てましょうと言うと「いつまで生きるかわからない」という声をよく聞きます。しかし必要なのは、予測を立てることではなく、計画を立てることです。それも、100歳まで生きると想定して保守的な計画を立てることが大事です。
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それぞれの節目について見ていきましょう。1つめの65歳は「退職」の節目です。
ここでいう「退職」とは、勤労収入が生活費を下回るようになる年齢を指しています。勤労収入だけで生活費をまかなえなくなり、別の収入に頼らなければなりません。すると、資産を「使いながら運用していく」という時代に入る。いわば資産運用からの「部分撤退」を考えるタイミングということです。
2つめの80歳という節目は、認知・判断能力の低下です。資産運用もどこかでやめなければならない時期が来ます。たとえば認知症の診断が下されると、本人による金融資産の管理が認められなくなり、銀行口座も凍結されます。当然ながら、資産運用も自分の判断で売り買いすることができなくなるのです。もちろん個人差はあるのですが、高齢者の自動車免許の返納と同じで、「まだ大丈夫」ではなく、完全撤退する時期を見極めておくことが大切なのです。
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3. 資産の取り崩しポイント2: 退職金で資産運用を始めるなら、現役時代 から経験値を高めておく |
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──現役時代に資産運用はせず、退職金で投資を始めようと思っている方もいると思います。このケースでは、どのような注意点があるでしょうか。
「資産運用が必要なのはわかった。であれば、退職金も手に入るし、これで資産運用を始めればいいですよね」とご相談をいただくことがあります。もし、退職金で投資をしたいと本気で考えているなら、現役時代に実際に投資を始めてみて、自分がどのくらいのボラティリティ(価格変動性)に耐えられるかを知っておいたほうがいいと思います。
私自身、退職後に確定拠出年金を一括で引き出した際、当然のようにこれを投資に向けるつもりでいました。しかしちょうどウクライナ侵攻という国際情勢に大きな動きがあった時期で、ボラティリティが跳ね上がり、投資に躊躇してしまったんです。怖くなってしまい、待とう、となりました。こうなると、その後に株価が回復しても、また下がっても、もう買いに行けない。
現役時代、価格下落時は投資のタイミングと考えてきた私でさえ、こうなってしまいました。毎月決まった給与が入ってこない中での運用資産の増減の怖さは、想像以上です。投資理論よりも感情に左右されてしまうのです。だからこそ、まずは現役時代に経験を積んでみてほしいと思います。
──確かに退職金という大きなお金で、はじめての投資となると、価格変動で一喜一憂してしまいそうです。
資産運用はしたほうがいい。しかし退職後は、ボラティリティの少ない運用を考えるべきなんです。そして、資産運用をすれば、資産は必ず増えたり減ったりします。それは取り崩しするときに、資産額が変わっているということです。ですから、間違っても退職金を元手に大きなリスクをとるような運用をしてはいけない。そして、このリスクの大小の感じ方は、個人で違います。どれくらいの額が動くと自分が正気を失うのか、運用判断を間違ってしまうのか、現役時代にぜひ確認をしておいてください。
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4. 資産取り崩しポイント3: 生活水準は下げずに、生活費を減らす方法 を検討する |
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──これもよくあるご相談例としてお聞きします。退職金もローン返済にあてる予定で、運用する資産がほとんどないというケースでは、どう考えればいいでしょう。
運用できる資産がない、または、資産はあっても住宅ローンの一括返済にあてる予定で、資産運用をするつもりはない、という人は、退職後の生活で預金を取り崩していくことになります。この場合、「生活費」「勤労収入」「年金収入」の3つを見直していきましょう。
冒頭で申し上げたように、生活費を見直すとなると「食費を切り詰める」という発想になりがちですが、それだと少し寂しいですよね。生活水準は下げずに生活費を減らすことを考えてほしいと思います。
あくまで一例ですが、都心のマンションを売って地方都市に移住すれば、生活水準をそれほど落とさずに生活費を減らすことが可能になります。また都心に住むなら、自家用車を手放すだけでも生活費はぐっと抑えられるでしょう。車を所有していると、ガソリン代も駐車場代もバカになりません。
このほか、できるだけ長く働くことも大事です。年金受給をそれだけ繰り下げることができますから。現在ではシニア層の働く場が非常に増えていますし、働き方も多様で、さまざまな選択肢があります。また、もし今も現役なら、将来的に長く働けるかどうかを考えて、これからの仕事や職場を選んでいくことも大切です。
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5. 資産の上手な取り崩しは人生観そのもの。 ファイナンシャル・ウェルネスを目指す |
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ここまで、人生100年時代のいま、安心して暮らしていくための退職後の資産の取り崩し方について、3つのケースからポイントを解説してきました。お金と資産の取り崩し方は、戦略的に考えていくことが重要です。ただ一方で、リタイア後の人生、金勘定だけで決めてほしくないという思いもあります。
私はこれまで、60代の方々に、資産の取り崩しをテーマにインタビューをしてきたのですが、痛感したのは、リタイア後のお金にまつわる話は人生観そのものだ、ということです。
たとえばシングルファーザーで働きながら子育てをしたAさんは、「もう仕事はしたくない」と、60歳できっぱり仕事を辞め、代わりに年金受給を5年繰り上げました。繰り上げると減額されますから、普通は損と考えます。ところがAさんは「それに合わせた生活費で生活すればいい」と、上手に生活をコントロールしながら暮らしています。
リタイア後に米農家を始めたBさんもいらっしゃいますが、米の収穫だけではまったく儲かりません。生活は年金で賄っている状態です。ではなぜ米農家を始めたのかと聞くと、「実家の土地がもったいないから」「少しでも米を送ると子どもたちが喜ぶから」と言っていました。
二人とも、金勘定とは別の次元で生きていると思いませんか。
ファイナンシャル・ウェルネスという言葉がありますが、こういう状態を指しているのではないかと思っています。経済的な安心感とか、お金への満足度といった具合に捉える人もいますが、本当は「自分の意志決定を、お金に左右されないこと」ではないでしょうか。
50〜60代の方々にとって、人生はまだまだ続きます。人生における山の下り方は人それぞれ。資産の上手な取り崩しも含めて、お金とどう向き合うかをぜひ考えてみてください。ファイナンシャル・ウェルネスはその先にあるのだと思います。 |
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・情報は2025年12月現在に基づきます。 ・記事の情報は信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その確実性を保証したものではありません。 ・記事は外部有識者の方等にも執筆いただいておりますが、その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。 ・なお、記事の内容は、予告なしに変更することがあります。
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